聞き返されると思っていなかったのか、後藤さんは不意討ちを食らったような顔をした後、少し声のトーンを落として続けた。


「…聞いたことあるだろ、部長と葛城の噂。
今回の出張は二人って言ってたから、よろしくやってるんじゃないの?」


「よろしくって…、それって───」


あたしがまた裾を引っ張ると、後藤さんは何やら思わせ振りな顔を見せるだけで答えてくれなかった。


程なくしてエレベーターは経理部のある4階に着く。
それなのに、降りることなく神妙な面持ちで立ち尽くすあたしを後藤さんが不思議そうに覗き込む。


「着いたよ?」


我に返ったあたしは慌ててエレベーターを降りると、後藤さんへの挨拶もそこそこに駆け出した。


二人で出張…?


いつもなら一番に向かう化粧室を素通りして経理部へ向かうと。
パソコンが起動するなり出張申請書のファイルを引っ張り出して、慌てて今月分を開く。


あった。
後藤さんの言った通り、イベントに参加するために企画部から出張申請が出ていた。


小泉部長と葛城主任。
昨日の夜の新幹線で大阪に向かって、一泊…。


昨日あの後、二人は同じ新幹線で大阪に向かって、向こうのホテルに一緒に泊まったんだ。