「どうせ無理だって思ってるんでしょ」


私が言うと、部長は不服そうな顔で答える。


「決めつけるなよ」


「だって、あたしが葛城主任と張り合っても無駄だって言ってたじゃないですか。
あたしはどうやったって、主任みたいないい女にはなれないってことでしょ?」


部長も、結局葛城主任の肩を持つんでしょ。


「そういう意味じゃない。
あいつは曲者だから、敵に回すのは止めておけって言ったんだ」


あいつ。
その親しみがこもった呼び方に胸がモヤモヤする。


「敵対心を抱くのは勝手だが、お前は新人の頃のあいつに似てるんだよ」


「あたしが、葛城主任に…?」


「未熟なクセに自信過剰なところも。
俺に噛みついてくる無謀なところもな」


葛城主任が?
あの落ち着き払った彼女が、新人の頃はそんな風だったなんて全然想像できない。


ていうか、部長はそんなに葛城主任のことに詳しいんだ。
そう思うと、なぜだかあたしの胸のモヤモヤが膨らんでいく。


二人の間には何もないって言ったくせに。
いつもは見せないような優しい表情で思い出話なんてされたら、あの女に気持ちがあるとしか思えないじゃん。


「昨日、一人で黙々と残業をしてたお前を見て少しは見直したのに。
たった半日で見損なわせるな」


部長はあたしの頭を軽く小突いて立ち去った。