「泣き止んだようだな」


部長はゆっくりとあたしの体を離す。
抱きしめられているうちに、涙はすっかり止まっていた。


拘束されていた腕からやっと解放されたのに。
同時に消えていくその温もりに、あたしは喪失感を覚える。


「───さっきは、八つ当たりしてすみませんでした…」


今まで猫をかぶって本心を隠して生きてきたのに、部長には恥ずかしいところを見せてばかりだ。
肩を落とすあたしを見て、部長は苦笑する。


「今日はやけに素直だな。
この間はあんなに噛みついて来たくせに」


あたしの調子を狂わせてる張本人が言わないで欲しい。
あたしをあたしじゃなくさせてるのは部長だ。


「自分がいい女だって証明するんだろ?」


和田さんも葛城主任も部長も。
企画部の面々は揃いも揃って憎たらしい。


あたしだって見返したいけれど。
和田さんに振られて、葛城主任にも格の違いを見せ付けられて。
どうやったら、小泉部長にあたしのことを認めてもらえるの?