「…昨日、あたし和田さんとキスしました」


あたしの突然の先制攻撃に葛城主任は一瞬こちらを見たかと思うと、何もなかったかのように再び書類を拾い出す。


「これで全部?」


そして手際良く書類を集めると、それを揃えてあたしに手渡してくれた。


「怒らないんですか?」


いくら主任でも、お気に入りの男に手を出されたら嫉妬くらいするでしょ?
早くその余裕の表情を崩してよ。
みっともなく狼狽えるところを見せてよ。


「あいにくだけど、彼は同時に複数の女性と遊べる程器用な男じゃないのよ。
誤解させてしまったならごめんなさい。
彼はあなたには本気にならないわ」


葛城主任はそう言って微笑むと、再び甲高い足音を鳴らして去って行った。


完全にあたしの負けだ。
何もかも。


主任の後ろ姿を見ながら、あたしは唇を噛んで書類を振りかぶる。
そして思いっきり床に叩き付けようとした瞬間、その手を強く掴まれた。