「は、はい」


小泉部長レベルの端正な顔は、見る者を怯ませる威力がある。
距離が近すぎて、あたしの体はまるで金縛りに遭ったように動かなくなってしまった。


「安心しろ。
このシステムは頑丈だから、そう簡単にデータは消えないよ」


図らずも、部長の湿った吐息があたしの耳にかかる。
まるで部長に背中から抱きしめられているように錯覚してしまう。


『小泉部長に口説かれたら、落ちちゃうかも』


まずい、意識してしまう。
絶対に沙織が変なこと言ったせいだ。


「───これでどうだ?」


小泉部長の言葉で我に返ると、さっき消えたはずのファイルが開かれていた。
あたしがさっき必死で打ち込んだデータもしっかり残ってる。


「大丈夫です!
でも、どうやって…」


あたしがこれまでと一変して感謝と羨望の眼差しを向けると、部長は不適な笑みを浮かべながら自分の頭を指差す。


「元々システム開発部にいたからな。
ここが違う、ここが」


そのいつになく茶目っ気ある仕草に、不覚にもギャップ萌えしそうになって慌てる。


ていうか、システム開発部、通称シス部は社内でも取り分け有望な社員が集まる部署。
小泉部長って本当にエリート中のエリートだったんだ。