データの打ち込みも八割方終わり、待ち合わせにはなんとか間に合いそうだ。


デスクで体を伸ばしながら、ふとフロアに残っている人影を見渡す。
サービス残業をしている人種は、プライベートがつまらないのか、よほど仕事の処理能力に欠けているかのどちらかのように思えてならない。


特に前者のグループとは一緒になりたくないから、早く切り上げようと再びパソコンに向き直ったとき。
ほんの一瞬、フロア中の照明が消えた。


停電?


すぐに照明は付き、ホッとしたのも束の間。
今まさに書き込んでいたパソコンの電源が落ちていることに気付いた。


「嘘っ!」


カチカチッ。
パソコンを再起動して、保存していたはずのフォルダを探すも、強制終了されたせいかデータがどこにも見つからない。


顔から血の気が引いていく。


どうしよう。
あんなデータの量、今から入力し直したら待ち合わせには絶対間に合わない。


かといって、あたしにも少なからずプライドはあるから、引き受けた仕事を投げ出すなんてできない。


和田さんはこれから忙しくなるって言ってたし。
今夜を逃したら、次二人きりで会えるのがいつになるか分からない。


せっかくデートの約束を取り付けたのに、やっぱり今日はツイてなかった。
そう思ったとき。


「見せて」


突然背後から低い声が聞こえたかと思うと、脇からぬっと長い腕が伸びてあたしのマウスを掴んだ。


「こまめに保存してたか?」


この声…。
恐る恐る視線を向けると、あたしのすぐ隣に小泉部長が屈んで立っていた。