小さくなっていく和田さんの後ろ姿を見ながら、あたしは微動だにできない。
ちょっと待って。
この状況で沙織も誘うってどういうこと?


「…もしかして今、牽制されたの?」


信じたくないけど、どう好意的に解釈してもあたしと二人きりになるのを避けた以外の理由が思い当たらない。
否定して欲しくて、念のため沙織に確認してみたけれど、


「あるいは和田さんが奇跡的な鈍感か。
そうでなきゃゲイか、どれかね」


沙織が冗談めかして言う。


「だったら、いっそゲイの方が良いわよ」


私はケラケラ笑う沙織の横で大きく溜め息をつく。


自分と違う身体を持った男に負けるのなら、まだ諦めがつく。
だけど葛城主任はあたしと同じ女だ。
しかも同じタイプの。


女として誰かに負けるなんて、今までずっと勝ち組だったあたしにはひどくショックだった。


「お願い沙織、今夜来ないで」


あたしが目の前で手をぱちんと合わせると、沙織が目を丸くする。


「まさか、この期に及んでまだ諦めないの?」


「一度はこっちに傾きかけたんだから。
諦められるわけないじゃない」