部長に言われてハッとする。
タクシーに絶対同乗するなって釘をさされたのに、不可抗力とはいえ、結局家に上がり込むことになってしまったのだ。
後から後藤さんに何か言われそう。
いや、別に本当に何もなかったんだけど。


「───言っておきますけど、あたし誓って何もしてないですからね」


眠っている部長にキスしたい衝動に駆られたことは伏せておきつつ、そう慌てて否定したあたしに部長はプッと吹き出した。


「それは普通、こっちのセリフだろ。
なんでお前が言うんだよ」


「───手を出してもらえないことくらい分かってますから」


あたしがいじけたようにつぶやくと、部長は少し考えるようにしたあと続けた。


「───そうでもないだろ」


え?
まさか部長の口からそんな言葉が出るとは思わなくて、驚きながら部長を見つめ返すと、


「俺が10歳若ければ手を出してたかもな」


部長はあたしをからかうように、そう続けた。


もしかしたらフォローしてくれたのかもしれないけど、あたしは素直に喜べない。
絶対に埋まることのない年齢差が、いつも部長とあたしの間に立ちはだかる。