月宮天子―がっくうてんし―

敵の敵が味方かどうかはわからない。

愛子にもその言葉の意味は充分にわかっていた。


でも、辺り一面に漂う空気は尋常ならざるものだ。海に何かあったのでは? と、愛子が胸騒ぎを覚えた瞬間、蓮が走り出した。


愛子はちょっと迷ったが、香奈をその場に置いたまま、蓮を追いかける。

庭を突っ切り、裏門を抜けてすぐ、蓮が立ち止まっていた。


「ちょっと、突っ立ってないで探してよ」

「下がってろ」

「え?」


蓮は一点を凝視している。

何気なく愛子が同じ方向に視線をやると……。


「ああっ! 玉っ! 『翠玉』がなんでここにあるのっ?」


愛子の言葉に、蓮の全身に緊張が走る。

だが、事態はそれどころではなかった。


「きゃあっ! な、な、な……熊ぁ」


転がる玉を追いかけて、真っ直ぐ走ってくるのは巨大なヒグマだ。愛子でなくとも驚くだろう。

だが、蓮には想定内の出来事だったらしい。

再び、ベルトからスッと『光剣』を取り出した。