「成績も優秀で、授業態度も真面目な西園さんが、まさか補習をサボって恋人を連れ込むなんて……」


もちろん、愛子もなんとか知恵を捻り出し、言い訳はしたのだ。


「事件を知った彼がわたしを心配して、大慌てで駆けつけてくれたんです。でも、学校脇を流れる用水路に落ちてしまって……。人に見られたら困るから、屋上で服を脱いで乾かすことにしたんです。それが、風に飛ばされて、あ、わたしたちが来たときには、屋上に出るドアは壊れてました。本当なんです!」


……これを信じる教師はまずいないだろう。


もちろん誰も信じなかった。

しかし、人間の力では、鉄製で内開きのドアを外側に押し開けることは不可能である。壊れ方から言っても尋常な力ではない。

それに、「心配して駆けつけた」と言った部分は、ある意味、警察が証明してくれた。直前に殺人事件の発見者として現場で尋問を受けていたからだ。

学校側は、駆けつけた恋人とふたりきりになろうと屋上に上がり、勢いでコトに及ぼうとした所、男の服が風に飛ばされ、身動きが取れなくなったのでは? と結論付けたようだ。


「とにかく、男性の身元も確かなようですし、ご両親も交際を認めておられるとか。本校としても、あまり騒ぎは大きくしたくありません。市村先生の事件もありますし……。ですが、緊急事態とはいえ、学校内に無断で入り込むのは感心しませんね。二度と、校内には連れ込まないように。いいね」


と、言うことになったのだった。 



微妙な沈黙がリビングに流れた。

母は戻るなりソファに座り込んだままだ。愛子は言い訳をしようかとも考えたが、墓穴を掘ることにもなり兼ねない。

横を向くと、海はなぜかフローリングの上に正座したまま――神妙な面持ちで、審判を待つ、といった風情である。