月宮天子―がっくうてんし―

『いや、俺は大丈夫。でも……小さい子供が、殺された。もうちょっと早かったら助けられたかもしれないのに……』

「カイ、カイ、あんたのせいじゃないから。ねぇ、ちょっと、泣いてるの?」


シュルシュルと床を這う音。

続けてロープを引き摺るような音……しかし、愛子は電話に夢中だ。


『いや……大丈夫だよ。学校も危ないから、愛ちゃんも気をつけて。今、教室? 皆と一緒だよね?』

「保健室よ。一時限に間に合わなかったら……センセと一緒。もうすぐ戻っ」


市村はまだだろうか?

と、振り向いた愛子の目に映ったのは――決して、そこにいるはずのないもの。


直径三十センチ強、全長七メートルはありそうな『大蛇』だった。


――ゴトン。


携帯電話が床に落ちる音がした。自分の手から携帯が抜け落ちたことすら気付けないほど、愛子の頭はパニックだった。

その瞬間、シュルッと大蛇が動いた!


「キャッ! カイ……カイ、助けて……へ、へび……嫌い、へびぃ」

『愛ちゃん! 愛ちゃん!』


携帯電話は必死に何か叫んでいる。

だが、愛子の耳には届かない。

逃げ道を探し、愛子は入り口付近に目をやった。そこには白い塊が落ちている。

それは、さっきまで市村の着ていたフェミニンな白のスーツ――の残骸に思える。それが意味することは……。