月宮天子―がっくうてんし―

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「おはよー。愛ちゃん! 見たぞぉ」


愛子が保健室のドアをノックし、中に入るなり言われた。

あの騒ぎで補習の一時限目は間に合わず、途中から入るのも気乗りせず……。愛子は、適当に保健室で休んで行こうとやって来たのだ。

保健室は月に一度は訪れる。理由は言わずもがなだろう。そのため、保健室の養護教諭・市村結香(いちむらゆうか)とは仲がよかった。


「あ、おはようございまーす。ちょっと……二時限始まるまでいさせてください」

「いいわよ。で、愛ちゃんのカレシ?」

「何がですか?」

「さっき、校門まで送って来てたのカレシでしょ? 結構イケメンよねー。どこでゲットしたの?」


市村は二十三歳。大学を出て二年目だ。長い髪をゆる~く内巻きにして、ほわっとした印象のお嬢様タイプである。

でも、中身は今どきの肉食女子だ。独身のイケメン男性教師はあらかた“食われた”との噂。

最近じゃ生徒にまで触手を伸ばしている……とか。


「カレシじゃないです。えっと、父の教え子で……九月から、春星(しゅんせい)学園幼稚園の先生になるらしいです」

「へえ~ここから近いじゃない。どこに住んでるのかしら……ひょっとして」


市村は思わせぶりな視線を愛子に送る。


「まあ、うちですけど。でも、すぐに出て行くんです! ほら、今、例の事件で危ないから……番犬代わりっていうか」


保健室のベッドに腰掛けて窓から外を見る。そこからは、自転車置き場とか校門の辺りがよく見えた。


「ふーん。心配しないでね。生徒のカレシに手を出すような真似はしないから」


市村はニコッと笑って言った。

しかし、それに続く言葉に愛子はドキッとする。