月宮天子―がっくうてんし―

その怒声に駆けつけてきたのが警官だった。

近隣で事件が起こった直後である。慌てた様子で路地から女子高生が飛び出して来れば……。


「どうしたんだね? この男に何かされたのか?」


またまた拳銃を抜かれそうな雰囲気だ。

愛子は思わず、「変態です!」と突き出してやろうかと思ったが、


「な、なんでもないんです。彼ったら……朝っぱらから浮気してるんですよ! 信じられます? 殴られて当然でしょ! ね、そうよね」


そう言うと海のわき腹を突いた。


「そ、そうです。すみません。ゴメンなさい……二度としないんで勘弁してください」


海はひたすらペコペコと愛子に頭を下げた。

警官は、「この非常時に」とブツブツ言いながらふたりの傍から去って行く。


仮に、「動物に変化する人型の化け物に襲われました!」と言ったところで誰が信じるだろう。愛子の場合、受験ノイローゼ扱いで通院でも勧めらるのがオチだ。それに、一刻も早く邪魔な警官を追い払いたかった。

愛子は警官が遠ざかったのを見計らい、口を開く。だが、ほぼ同時に海も話し始める。


「あ、愛ちゃん? あの助けてって」

「出たの! 変な女が。あのホワイトタイガーの仲間よ、きっと!」

「どこにいるんだ? あの玉のこと、何か言ってたか?」

「そうよ! だからカイを呼べって。『翠玉』はあたしらのもんだから返せって言ってた」

「ってことは、あの玉を使って人間を動物に変化させ、共食いさせてるんだろうか? ……なんのために?」

「そんなことわたしに聞いても……あ! さっき、わたしを助けてくれた人がいるの。あの人大丈夫かな?」

「そういうことは先に言ってくれよ」