月宮天子―がっくうてんし―

海やあの警官のように、玉を手にした訳でもないのに……なんで突然、と叫びたいが声にならない。


そのとき、大地を轟かせ、その咆哮が地表すれすれを這い、海たちの足元を揺らした。

これぞ肉食獣と言うべき雄叫びだ。


海が全裸であることも忘れ、愛子は海の背中にしがみつく。


「虎、だよね」


小さな声で愛子は確認のために声に出した。


「ホワイトタイガーみたいだね」

「子供のようだが……動物園から逃げ出したのか? だが、そんな報告は」


佐々木警部はどうあっても常識の範囲内で考えようとするが、もはや無理だろう。

どこの動物園も人間に化けるホワイトタイガーは飼育してないはずだ。

流火と名乗る美少年が変化した白い虎は、武者震いのように体をブルッと震わせると、海を睨みこう言った。


「きさまぁ『月宮天子(がっくうてんし)』かっ!?」

「……学級天使?」

「愛ちゃん。それって微妙に違うと思う」

「月光菩薩なら聞いたことがあるが」

「……それも違うと思います」


どうやらこの事態に慣れてきたのか、三人とも掛け合い漫才に近くなっている。

それ以前に、虎がしゃべった、という点は、海たちにとってすでに突っ込みどころではなくなっていた。