月宮天子―がっくうてんし―

あとになって思えば、少年の存在に警戒すべきだったかもしれない。

だが、ここまで来てしまえば吸血鬼やエイリアンがやって来ても驚かない。愛子はそんな心境だ。


だが、少年にとって海の変身は、驚愕の出来事だったようだ。


「嘘だ……嘘だ……嘘だあぁぁぁ!」


これまでのふざけた態度はどこへやったのだろう? 少年は突如絶叫した。


「嘘も何も、コレって何よ。なんでカイだけこうなったの? ねぇ」

「愛ちゃん、近寄るなっ」


突然、緑の怪人に抱き寄せられ、愛子は驚きのあまり固まった。

とくに、体のサイズに合わせて巨大化した海の――言葉にできない部分が愛子の手に触れた瞬間、乙女心はパニックに陥る。


「な、なんなんだ、いったい! 何が起こっとるんだ!」


佐々木警部が叫びに愛子も意識を少年に戻した。

警部の絶叫も無理はない。目の前の少年は、なんと服を引き裂き、体をくねらせ、見る間に巨大化している。

その体躯には白銀色の毛が生えそろい、所々に黒の縞が入り……全長約二メートルを超えた辺りでその変化は止まった。

それはもう、少年とは呼びがたいモノとなっていた。