月宮天子―がっくうてんし―

「流火くんだっけ? あ、あなた……詳しいようだけど、元に戻せるの? だったら、あのゴリラを先に、どうにかしてよ!」


ゴリラは緑の煙に包まれた海に何度も飛び掛る。

何がなんでも捕まえて食べたいらしい。


「う~ん、そうだねぇ。若い男だし元気そうだからあと五分かなぁ。持っても十分だと思うよ」

「なんなのよ! その基準はっ!」

「変化して三十分が限界なんだ。タイムアップで玉が出てくる。ほら、さっきの狼くんみたいにね」


そう言って流火はニッコリと微笑んだ。

あまりの美少年顔に、場違いにも愛子は見惚れてしまう。背丈は自分と同じくらいだけど、体重は軽そうだ。悔しいけど、女装してセーラー服を着たら、愛子よりモテるだろう。


「だ、ったら……それだけ待てば元に戻るのか? では、東(ひがし)巡査部長も」


東巡査部長、どうやらそれが最初の化け物……お腹の出た警官の名前らしい。

佐々木警部は楓の木に背中を擦りつけなんとか立ち上がる。


「うん! 心臓が持たないからね。鼓動が止まったら宝玉も出てくるんだ」

「心臓が止まったら死んじゃうでしょうがっ!」


相手が何者か考えもせず、愛子は流火に掴みかかった。


「その前に取り出してよ! せとないかいを殺さないで!」

「へぇ、彼、せとないかい、って言うの? 面白い名前だねぇ」


そのとき、墓の下に眠る仏様まで叩き起こしそうな叫び声が上がった。