月宮天子―がっくうてんし―

ゴリラはその隙をついて海に襲い掛かる。

海は、人間の三倍はありそうな腕で山門前に殴り飛ばされ、五倍はありそうな足で今度は境内の真ん中まで蹴り飛ばされた。


「いやーっ! やめて、死んじゃう!」


愛子の悲鳴が境内にこだました。


海は境内の中央で蹲っていた。

その直後、海の全身から緑の煙が立ち昇り始めた。それはちょうどゴリラ……有働巡査のときみたいに。


「う、うそ」


愛子はもう訳がわからない。

いや、そもそも最初から全然わからないのだが……。事態はますますわからなくなる一方だ。


「始まっちゃったねぇ。さぁて、彼はなんになっちゃうのかな。虎とかライオン辺り? それとも意外と可愛くキリンとか? 象は嫌だよね」

「バカ言わないでっ!」


海が化け物になり愛子たちに襲い掛かるなんて信じられない。

そんなことになれば、もう助からない。愛子の胸に絶望が広がった。だが、愛子はハッとして流火を見る。