月宮天子―がっくうてんし―

再び、ゴリラが佐々木警部を襲う。彼も警棒を取り出し応戦しようとするが……腕が折れているのか警棒すらつかめてない。


「ちょっと待って、ゴリラって肉食? 違うでしょ! だから、た、食べちゃダメだよ」


愛子は別の方向から説得を試みる。


「無駄だよ、お姉さん。宝玉(ほうぎょく)で変化(へんげ)したら全部肉食になるんだ。うさぎになった女の子がいたけど、ペットのチワワを食っちゃってさぁ」


少年はサラッと愛子の努力を否定してくれた。


「あ、あんた誰よ! ほ、ほうぎょくって何? 何か知ってるの? だったらなんとかしてよっ!」

「あ、僕? 僕は流火(りゅうか)。よろしくね、お姉さん。でも、あのお兄さんはちょっと強そうだよねぇ。僕、タイムアップまで逃げとこうかなぁ」


流火と名乗った少年の視線の先に海がいた。


海はしばらく呆然としていたが、佐々木警部のピンチに駆け戻ってくる。

愛子も緑の玉がどこに行ったのかすっごく気になるが、このままじゃ皆肉食ゴリラの餌になってしまう。


「お借りします!」


海はそう叫ぶと、佐々木警部の腰から警棒を奪い、ゴリラの前に立った。

横一文字に構える姿は中々かっこいい。だが、先にゴリラの方が突進してきた。海は警棒で薙ぎ払いつつ後方に飛びずさる。そして今度は間髪を入れず、海からゴリラに飛び掛った。


そのときだ――突然、海の動きが止まった!