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「好きって言ったくせに! 好きな女の子より、妹を選ぶ男ってどうよ。カイの馬鹿っ。シスコン野郎!」


事件が嘘のように起らなくなり、戒厳令一歩前の状態は日常に戻った。

犯人は逮捕されてないので、相変わらず警察は忙しい。と、昨日電話で佐々木警部は言っていた。

警部も、有休を使いきりしだい早期退職する予定が、結局来春まで延びたそうだ。

デスクワークだけどね、と笑っていた。


あの夜、氷月らは蓮と朔夜に呼び出しを掛けたらしい。愛子の「マブダチ」を真に受けたせいだった。

そして、海が『月宮天子』だとふたりは知り……。

蓮は力ずくで朔夜を制止して、愛子を助けに向かったという。

残された朔夜は『紅玉』を使って海を見つけ出したそうだ。その海と朔夜を、車でダムの入り口近くまで送ってくれたのが警部だった。


警部は、愛子らが戻って来るまでジッと同じ場所で待っていてくれた。

そして四人の姿を見るなり、泣き笑いを浮かべた警部の顔を、愛子は一生忘れないつもりでいる。


一は、獣人族との最終決戦があったと聞くと、「なんで俺も連れてってくれねぇんだよ! グレてやる!」と叫んでいた。


顔を合わせると愛子とは喧嘩ばかりだが……。つい先日、一緒に明治記念公園のプールに泳ぎに行った。

海がいなくなって落ち込む愛子を、一と香奈で一生懸命慰めてくれている。どうやら、せめてもの罪滅ぼしのつもりらしい。

愛子が海を探して『わかば園』を訪れたとき、なんと海は壁の向こうにいたのだという。


「ごめんなさい。本当に、なんと言ってお詫びしたらいいのか」


香奈が心底申し訳なさそうに言うので、愛子も怒ることができなかった。