月宮天子―がっくうてんし―

頭を噛み砕かれる――そう思った一瞬、氷月の獰猛な牙は朔夜の眼前で止まった。

錫杖を横にして金豹の上顎に当て、両腕で押し上げたのだ。


だが――力がまるで違う。


「巫女を喰らうのは初めてだ。――まずは頭から喰ってやろう」

「クッ!」


氷月の涎が朔夜の頬に落ちる。


(な、なんとかしなきゃ……)


愛子の手に朽ちかけた角材が触れた。

氷月は怖い。朔夜は偉そうで憎たらしい。でも、愛子はそれを掴むと、ありったけの勇気を振り絞った。震える足を交互に動かし、勢いをつけて、氷月の顔面に角材を叩き込む!


「ざけんじゃないわよっ! このライオンのでき損ない。黒の斑点忘れて来たんじゃないのっ」


猛獣相手に言いたい放題の愛子だ。

朔夜のほうが青くなっている。


「小娘め、貴様を先に喰うぞっ!」


錫杖が邪魔で随分喋りにくそうだが、威嚇の唸り声を上げつつ愛子を睨んだ。


「食えるもんなら食ってみなさいよ! こっちこそ、あんたなんか毛皮は剥製にして、中身はステーキにして食ってやるんだからっ!」