月宮天子―がっくうてんし―

朔夜は愛子の俗物的な見解に、あからさまに鼻白む。


「そんなことを気にしてる場合ではなかろう!? もっと客観的に物事を見られないのか? これだから女は」


そんな朔夜の言葉に、愛子もカチーンときた。


「好きな人がいなくなるかもしれないのよ。一大事じゃない! カイはね、自分のことなんか二の次にして頑張っちゃう人なんだから、わたしが心配してあげなきゃダメなの! 女は恋のために命だって懸けるんだからね、それがわかんないなんて……あんた、それでも女なの? 蓮が可哀想」

「さ、さっきから、なぜお前が蓮を呼び捨てにする!」

「そっちこそ! カイを呼び捨てにしないでよねっ」


ふたりは、あわや取っ組み合いの喧嘩になろうか、と言うときだった。

不意に海の声が響く。


「愛ちゃん、朔夜さん逃げろっ!」


愛子と朔夜はハッとして横を向く。なんとそこには、女ふたりに一直線に向かって来る、金色の豹の姿があった。


「下がって! ――壁(ヘキ)ッ!」


朔夜は手にした小ぶりの錫杖を翳し、なんと光の壁を作った。

だが、力は無限じゃないらしい。朔夜は肩で息をしている。そんな朔夜の『光の壁』では、とても手負いの猛獣を跳ね返す力は残されていなかった。


氷月が壁に突っ込んだ瞬間、まるで光はガラスのように砕け散る。金色の豹は、そのまま朔夜に飛び掛った。