月宮天子―がっくうてんし―

もし、できなければ、洒落にならない事態だろう。

愛子の目の前で、海はそっと自分の右手を胸の上に置いた。


「――変身!」


一気に、目の覚めるような透き通った青が広がった!

その光が納まったとき、そこには光より濃い、コバルトブルーに輝く『月宮天子』の海が立っていた。


「すっごーい、ブルーバージョン! サファイヤみたい」


愛子は歓声をあげた。

だが、天泉は別の意味で海に興味を持ったらしい。


「ふへへへ。『碧玉』もいただきだぁ」


静寂に包まれた湖畔の大地を轟かせ、天泉は海のほうを目がけて突進した。ヒグマ相手にまともに組み合ったのでは勝負にならない。蓮や朔夜と違って、海には武器もないのだ。

ただ、天泉は蓮に右目を潰されていた。

海も気づいたのか、咄嗟に天泉の死角に入る。そのまま天泉の膝裏を狙い、ローキックの連打を入れた。


捕まりそうになるのを避けながら、二〇発以上蹴りを入れて、ようやく天泉の身体が前に傾いだ。

海は腰を落とし、溜めを作り、天泉の顔面に横蹴りを放とうとした――直後、足を止め、腰を引いたのだ。


「カイッ! 何やってんの!?」