月宮天子―がっくうてんし―

愛子のフリをした流火が、ぶら下がっていた桟橋は跡形もない。そのため、もっとボート小屋に近い木の一本に蓮は吊るされた。


愛子は割れたガラス越しに蓮の名を呼ぶ。


「蓮! ちょっと蓮! なんで来たのよ。あんたはあの朔夜って子の許婚なんでしょ? 彼女を守るんじゃなかったの?」

「……」


返事はなく、愛子は蓮が死んだんじゃないかと不安になる。


「ホントに、死んじゃったの?」

「……勝手に、殺すな」

「レンッ!」

「奴は……『月宮天子』様、だったんだな」

「そ、それは、わかんないわよ。カイは人間なんだから。そうよ、人間よ……多分」


愛子の声はどんどん小さくなる。

それに蓮の額や口元から流れる血が、痛々しくて直視できない。


「俺が四つのときに……朔夜様がお生まれになった。以来十七年間……お守りするためにだけ、生きてきた。なのに、お前は危険な目にばかり遭い……私の前に飛び込んでくる」


荒い息で答える蓮に、飛び込んで来るのはそっちでしょ! とは突っ込めない。

だが、四プラス十七は二十一?

蓮って海より年下だったの?

そのことに愛子は驚きだ。