月宮天子―がっくうてんし―

思わず海から蓮に転びかけた愛子だが、白露は思わせぶりに桟橋の方を見たままだ。

そうだ、あの氷月という男とそれにヒグマ……愛子が天泉のことを思い出した瞬間だった。壊れかけた桟橋が下から突き上げられ、あっという間に粉々になる。


(れ、蓮っ?)


頭突きで桟橋を壊したのは天泉だった。

どうやら、愛子が思ったほど深くないらしい。

天泉の登場は蓮にも予想外だったみたいだ。蓮は湖に飛び込んだが、天泉はまるで鮭を捕まえる要領で腕を振り回す。天泉は体の半分が水上に出るが、蓮にすれば立ち泳ぎの状態らしい。

と思ったときには、蓮の姿は水中に消えていた。

天泉も周囲を探している。すると、天泉の体がグラッと揺れた。ひょっとして、水中で足を切りつけたの? 愛子はそう思ったが、どうやら天泉には効き目がなかったようで、倒れる気配はない。

そのとき、天泉の背後に蓮が浮かび上がり、天泉の背中に月の光を受けた『光剣』を振り翳した。


(よしっ! いっけぇ!)


愛子は声援が届いたのか、『光剣』は振り返った天泉の右目に突き刺さったのだ。


「やった!」


愛子がガッツポーズを仕掛けた、そのとき――天泉は痛みのあまり狂気めいた咆哮を上げ、蓮を両手で捕まえた!