月宮天子―がっくうてんし―

流火は、本来の姿で蓮の前に立つ。

地を這う咆哮は、やはり肉食獣特有のものだ。喉の奥をグルグル鳴らし、流火はゆっくり蓮の周囲を徘徊した。

一方、蓮もじりじりと間合いを探りつつ動く。

直後、流火が蓮に飛び掛かった。だが、壊れかけた桟橋は流火の巨体を支えきれなかった。支柱が折れ、桟橋は傾く。

蓮はバランスを崩して湖にまっさかさまに落ちた。


流火のほうは桟橋で堪え、蓮の落ちた方に狙いを定める。蓮が頭を出した瞬間を狙うつもりなのだ。

愛子はそれがわかったが、叫ぶこともできない。


一〇秒……二〇秒と時間は過ぎる。三〇秒を過ぎ、ジリジリしながら時計の秒針が軽く一周したであろうとき、水面に黒いものが浮かび上がった。


「もらったぁーー!」


流火は、子供がゲームに勝ったときのような声を上げ、水の中に飛び込んだ。

しかし、その一瞬後、反対側に水飛沫が舞った。湖から桟橋の縁を掴み、蓮は飛び上がる。そして一直線に『光剣』を流火に突き立てた。


「うぎゃあぁぁぁっ!」


蓮はすぐさま『光剣』を引き、流火を足場に傾いた桟橋の上に飛び移った。


「す、すっごーい! カッコイイ! ね、ね、思わない?」

「ガキの流火はあんなもんさ。それに――」