ポツン……ポツン……。額に何かが落ちるような気配に、愛子は薄っすらと目を開けた。

そして、目の前にあったのは……。


「ひぃ! ひぐまぁーー!」


額に落ちていたのは、ヒグマの涎だ。


「うまそう……。喰ったら駄目か?」


巨大な喋るヒグマに、愛子はひと言もない。


「わ、わたしって、そんなに美味しくない、というか、不味いです! それに、お腹をこわすかも。他をあたったほうが」

「腹こわすのか? うーん、腹が空くのと腹が痛いの、どっちにするか」


愛子が適当に言った言葉を、天泉は真剣に悩み始める。

これはチャンスだ。愛子は、両手両脚とも縛られてないことを確認しつつ……。逃げ出す手段を必死で考えた。


「天泉、まだ喰ったらダメだよ。若様の命令なんだからね! 久しぶりだねぇ、お嬢ちゃん。天泉はともかく、あたしは誤魔化されないよ。諦めるんだね」


ヒグマ一匹、と思っていたところに、唐突に声を掛けられる。

それは、白露だった。