「クッ……頼む、頼む、死ぬな……戻ってくれよ」

「カイッ!」


柴犬の力に押し倒され、海は地面に仰向けに転がった。柴犬の一は牙を剥き、涎を垂らして海の喉元に噛み付こうとする。


海がやられる――そう思った瞬間、愛子はブロックを掴んでいた。

そのまま、一の上に振り上げる。


「待て、愛ちゃん……よせ」

「ヤダッ! カイがやられちゃう! カイが死んだら嫌なのっ!」

「あい……ちゃん」

「犬……だよ。人間じゃない。犬だよ、この子はもう助からない!」

「愛ちゃん、やめるんだっ!」


愛子は海を助けるため、ブロックを振り下ろした。


「グウッ!」


くぐもった声に愛子がそっと目を開けると、海は一の口の中に左手を押し込んでいた。普通の柴犬にはない牙が、海の拳に食い込み、鮮血が腕を伝う。

そして、海の右手は愛子の振り下ろしたブロックを受け止めていた。


「ダメだ。俺のためにこんなことをしたら……君は、一生後悔する」

「でも……カイ」

「大丈夫。離れてるんだ。愛ちゃん、俺を信じてくれ」


愛子はうなずき、ブロックから手を離した。そのまま後ろに下がる。