*エピソード1:みどり
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「ちょっと待て!」
走って追いかけてくる優斗をかわし、
「やーだねっ。あっかんべー。」
わたしは彼に向かってあっかんべーをした。
まったく、なんて幼稚なんだろうと自分で思う。
でも、気付いた時には遅くて、体は勝手にそうしているのだ。
「またでたよ、ばっかじゃねえの?」
優斗はそんなわたしを鼻で笑い、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
どきどきどき。
一体何度、優斗がわたしに向かって歩いてきたことがあるのだろう。
それでも慣れなくて、わたしの心臓は今日もうるさい。
なんだか胸が苦しくなって、たまらず走り出した。
「あっ、こら!おい瀬菜!」
つかまるもんか。
つかまるもんか、優斗に。
これ以上好きになったら、わたしどうなっちゃうの。
あ。
本日二回目の逃亡は失敗に終わり、慣れないヒールで足をくじいたわたしは、優斗に腕をつかまれていた。
はい、ここで優斗の顔、ドアップ入りまーす。
「ね、やっぱり瀬菜ってばか?ばかだよね?」
笑いながら尋ねる優斗に、どきどきしながらも、
「ばかっていうやつがばか!」
わたしは気付いたらそう言い返している。
幼馴染歴14年。
片思い歴14年。
恋人歴、今日で2か月。
まだまだ甘い恋人生活は程遠い。
