「……帰るか」
「そうですね」
しばらくぼんやりしていたのだけれど、これといって話題もなく、どことなく気まずそうな間宮さんの一言でベンチを立つ。
民宿に戻ったら、間宮さんは今度はちゃんと布団で眠れるといいんだけれど……。
そんなことを思いながら、あたしは間宮さんの少し後ろをついて長い坂道を下っていった。
民宿に戻ると間宮さんはすぐに部屋に引き上げていき、あたしはおばあちゃんに小言を言われながら急いで朝ご飯をかきこみ、さっそく民宿の仕事に取りかかった。
お客さんはもう間宮さんしか泊まっていないけれど、今日でも明日でも、近いうちに新しくお客さんが来るかもしれない。
仕事に手抜きは禁物。
「……聞きそびれちゃったなぁ」
間宮さんがいる“潮風の間”の前の廊下をできるだけ静かに掃除しながら、ぽつり独り言。
民宿に戻ってまず飛んできたのがおばあちゃんの小言だったから、寝るときにどうしているかを聞きたかったのだけれど、すっかりそのタイミングを逃してしまっていた。
「ま、夜までには、ね」
時間はまだある。
それまでにラジオとかCDとか、効果が期待できそうなものを用意できるだけしてみよう。
うん。

