予兆は確かに何度となくあった。
間宮さんは民宿を出て行くつもりなんだ、と決定的に感じたのは、やはり、震災と、震災にまつわる話を聞かせてくれたあとと、“導きの蛍”を見に行ったあとにほかならない。
ただ、そうは感じていても、これといって出て行く様子は見られず、あたしもまた、まだここにいるんじゃないかという、一種の思い込みのようなものもあったことは否定できない。
けれど、それが今日だとは少しも思っていなかった、というのが、率直な思いだった。
さよならさえ言ってもらえなかった、言わせてもらえなかった悲しみと、部屋が全て元通りになっていたことで、ようやく気づいた間宮さんへの恋心に、溢れる涙を止められなかった。
その後。
気を利かせてくれたおばあちゃんの計らいで、ハルと香ちゃんに自分の気持ちを打ち明けることができ、前日の「青い空の向こう側に行く」という間宮さんの言葉そのものが、あたしに向けられた“さよなら”だったと知ることとなる。
それが、17歳のあたしの夏だ。
「それから2年……。私は、心のどこかで、彼が再びこの町にやってくること、彼と再びあえることを待っていたんだと思います」

