別に逃げるとは思っていないんだけど……。
そう言いかけたけれど、いつもの意地悪とはどこか違うような気がして、「ありがとうございます」とだけ返し、道を歩き続けた。
ほどなくして民宿に着くと、玄関の明かりが外に漏れ出ていて、のっぴきならない事情があって遅くまで戻れなかったとはいえ、連絡だけでもしておけばよかった、と、即座に思う。
けれど、おばあちゃんは起きて待っているものだと思い、姿を探してはみるものの、談話スペースにも台所にもおらず、嫌な緊張が走る。
と……。
「先に寝てるらしいぞ」
「え?」
「メモ書き、置いてあった」
テーブルに置かれてあったと思われる紙を手にした間宮さんが、それをひらひらと振って、あちこちをきょろきょろと探しているあたしの目の前、数センチのところへ持ってきた。
距離が近すぎて、なかなか焦点を合わせられなかったけれど、間宮さんから紙を受け取り、焦点が合う位置まで離すと、言われた通り『先に休んでいるから、適当に食べて』と、達筆すぎるおばあちゃんの字で、そう書かれてある。
「絶大な信頼度だな、マジで」
「いえ、ちょっと様子を見てきます」
「ん」

