母親は納得したように深く頷き、写真の裏の秀斗の字を愛おしそうに撫でた。
遺書の字より、こちらのほうが、当然だが元気がよく、力強さもあり、口約束の延長のような約束を本気で実現させようと熱く語っていたときの秀斗は、死にたいだなどとは微塵も思っていなかったことが、容易に窺える。
「あの、写真はご家族で持っていたほうがよろしいんじゃないですか? 俺も自分のものを持っていますし、同じ言葉も書いてあります」
あまりにも母親が写真の字を愛おしそうに撫でるもので、よかったら、とは言われたが、これまで頂いてしまうのはどうにも申し訳ない。
そう思い、言うと、母親はしばらく考えてから「そう言ってくれるなら、これは手元に置いておこうかしら」と写真を大事そうに手に取る。
父親も姉も「お母さんがそう言うなら……」ということで、一度は手元に置くことを了承したのだが、しかし、遺書を譲り受けたのちの帰り際に、車のエンジンをかけたところで、そこまで追いかけてきた姉が、息を切らしこう言う。
「ごめんなさい、やっぱりあなたに持っていてほしくて、お母さんからもらってきたわ。もしも、あなたさえよかったら、秀斗も一緒にその旅に連れて行ってもらえないかな」

