いや、それもまた、できるだけ“いつも通り”にしようという親父たちの気遣いだろうと思う。
どんな状況であっても、家事や仕事をしなければならない、ということも、もちろんあるが、それを差し引いて余りあるほどの強さは、自分の親ながら、すごいとしか言いようがない。
けれど、どっちにしろ、一晩中、泣き明かしたこの顔では、親父たちの前に出ていくことはできず、それぞが仕事に行ったあと、折を見て居間に顔を出すことにした俺だった。
「じいちゃん、ちょっと出かけたいところがあるんだけど、車、貸してもらっていいか?」
「かまわんよ」
「……ん」
用意してもらっていた朝食をとると、居間で煙草を吸っていた祖父から車を借りる許可をもらい、軽く身支度を整えてさっそく出かけた。
行くあてなんて、少しもない。
ただ、じっと家にいると余計なことばかり考えてしまいそうで、気分転換というわけでもないのだが、何か違うことに頭を使いたかった。
軽トラを走らせ、あてもなく道路を行く。
街の郊外にある家から、中心部まで、それからまた郊外に向かい、ひたすら運転をした。
けれど、ふと気づくと、無意識に海に向かって車を走らせていて、どうしたって俺は海で育った人間なのだ、と思い知らされることとなる。

