秀斗はまた、意地悪く笑う。
けれど俺は、そういう被災地の黒い部分を聞いても、不思議とそれほどの衝撃は受けず、むしろ、ああ、そうだよな……と素直に納得してしまったことのほうに、自分でも衝撃だった。
すると秀斗は、不思議そうに首をかしげる。
「美談ばっかりのニュースしか見てこなかったわりには、あんまり驚いてないみたいだな、航は。さっきまでみたいに、もっと驚いてくれたほうが、俺的には楽しかったんだけど」
「……、……そう言うなよ、秀斗。自分でも不思議なんだけど、妙に納得できたんだよ。みんながみんな、正しくいるわけじゃないって。なんつーか、やっと本当の被災地の現状が見えてきた気分だ。ずいぶん遅かったけど」
「本当だ。アホが」
「ごめん」
確かに美談ばかりではない。
今もなお、日本全国、世界各国が手厚い支援を続けてくれている中では、銀行から金が盗まれた、空き巣が入ったなどの事件や、避難所によって程度の差がある、という事実は、なかなかニュースにはできないだろう。
日本人の価値や、必死に立ち上がろうとしている被災地、被災者をおとしめるような報道は、今は差し控えるのが賢明な判断だ。
俺個人の考えだが、そう思ったまでのこと。

