「つーか、会えるわけねーよな」と、秀斗は聞き取るのがやっと、というくらいに小さな声でそう言い、話を聞きながら、俺は人の気持ちに正解はないのだと、つくづく思った。
これを言えば、また優等生の答えだと言われるのは必至だろうけれど、このことについては、秀斗が悪かったとも、啓太の母親が悪かったとも言えることではないと、そう感じる。
良かれと思ってやったことでも、迷惑になってしまったり、苦しめてしまうことがあり、受け取る側の気持ちの状態によっても、いいほうにも転がれば、悪いほうにも転がってしまう。
正解なんて、どこにもないのだ。
ただ、俺は又聞きをしている身であるため、きっとどんなに頑張っても秀斗の気持ちにぴったりと寄り添えはしないのだろうと、そう思う。
秀斗にも、啓太の母親にも思うところはあり、お互いのために会わないほうがいいとし、秀斗は身を引いたわけだが、それはすでに、話せば分かる、というレベルを越えていたのだ。
あの震災は、こういう面でも、どうにもならない苦しみや傷を、人の心の奥深くに刻み込んだのだと、改めて気づかされた瞬間だった。
「……まあ、啓太の話はそれまでだ。もう会っていないから、あれから親父さんやお袋さんがどうなっているかは、分からないけどな」
「そうか」

