そう言うと、秀斗は自嘲気味に笑った。
秀斗とは比べものにはならないかもしれないけれど、俺にも少し覚えがあって、気の利いた言葉はおろか、相づちすら、すぐには打ってやれず、下唇をきつく噛みしめる。
地震直後、高台の集会所に向かって避難しているときにたまたま一緒だった、消防団に所属している旦那さんを持つというあの女性や、集会所で夜が明けるのを待っている間、声をかけてくれた、彼女の安否が分からないながらも努めて明るくしようとしていた、あの男性。
そのほかにも、仲間たちを探して避難所を回っていたときに出会った、それぞれに様々な事情を抱えている人たちのことが思い出される。
こういうときほど人の気持ちに寄り添うことは難しいのだと痛感したし、それとともに、むやみやたらに、家族はみんな無事だった、などとは言ってはいけないと、そう思ったのだ。
秀斗は話し続けた。
「知らない間に、俺は啓太の家族を苦しめていたんだって思ったよ。バカだよな、俺。俺が顔を見せることが、啓太のお袋さんを苦しめることにしかならないなんて、言われるまで考えもしなかったんだ。あれはさすがにキツかった」
「……、……」
「それからは、もう会ってない」

