「次は、健司。健司の家は漁師をやっていたから、できるだけ最悪の想像をすればいい」
秀斗の話は続く。
敦士から右に指をずらし、一番ガタイがよく、一年中、黒く日焼けをしている窪田健司をトントンと示すと、秀斗は言った。
「できるだけ最悪……例えば、船ごと流されて、まだ見つかっていない、とか、か?」
「いや。船の中から見つかった。転覆して沈んでしまった船の中から、な。潜水士が見つけてくれたそうだ。時間が経ってしまって、遺体は見られないほどだったらしいけど」
「……っ、そうか」
言葉を詰まらせつつも、なんとか相づちを打つと、秀斗は「見つからないのと、見つかっても遺体の状態が悪いのと、どっちが最悪なんだろうな」と、遠い目をして言い、しばらく視線を漂わせると、俺を試すように目を合わせた。
何かの映画で、少し見たような気がする。
海難事故が起きたとき、現場に向かった潜水士が収容するのは、ほとんどが遺体で、その遺体の状態は想像を絶する、そんな場面だ。
「どうだろう……。俺には、どっちが最悪かなんて、今すぐには判断がつけられない」
「優等生の答えだな」
精一杯に考えて答えると、しかし秀斗は、すかさずそう言い、意地悪い笑みを浮かべる。

