敦士の家は家族で経営している小さな花屋で、高校を卒業したら家の仕事を手伝いながら花の勉強をするのだと、そう言っていた。
それを聞かされた俺たちは、最初「敦士が花屋かよ、似合わねー」と笑ったが、意外にも敦士は本気で、たまに学校に花を持ってきては、その花の花言葉やうんちくを得意気に語るのだ。
「だろうな。親父さんは市内のほうまで配達中だったそうだから、津波が来るまで、それなりに時間があったと思う。でも、敦士の家も海の根っこだろ? ……無理だったんだろうな」
「そっか」
「親父さんの話だと、車のトランクには花がたくさん積んであったらしい。花より自分の命だろうって、親父さん、泣きながら笑ってた」
「敦士らしいな」
「まったくだ。バカだよ、あいつ」
「……だな」
敦士の夢は、家の花屋をもっと軌道に乗せ、花が好きな可愛い奥さんをもらい、子どもを3人は作り、家を新築し、ゆくゆくは両親を楽させてやりたい、というものだった。
俺たち仲間の中では、一番に進路を決め、冗談めかしながらも夢を語っていた敦士。
花も一緒に避難させようという優しいやつだったけれど、本人が死んでしまっては、誰がその夢を叶えるというのだろうか……。

