英慈のじいさんは、確か足腰が弱く、杖をついてやっと歩けるくらいだったはずだ。
そんなじいさんを背負って逃げようとしたのだろうか……海から何百メートルという近いところにある家から、高台の安全なところまで。
「親父さんとお袋さんは、仕事先から直接逃げて無事だったらしい。連絡が取れないのは、事態が事態だから仕方ないと思っていたそうだけど、何日かして家まで戻ってみたら、そんなことになってたって。英慈、じいさん大好きだったからな。最後まで守ろうとしたんだろ」
「……そうか。親父さんとお袋さんは?」
「東京の親戚を頼って、そっちに行った。仕事先が被災して、再建の目処が立たないんだと。でも、ここにはいたくないとも言ってたな。もう、戻ってこないかもしれない」
「そうだったのか……」
秀斗の淡々とした語り口が、かえって英慈の死の様子や、その後の残された家族の苦悩や葛藤を生々しく想像させ、胸が痛い。
また、察するに、秀斗は英慈の両親から直接、そういった話を聞いたと思われ、そのときの秀斗の気持ちを想像すると、どんなに辛かっただろう……と、そればかりが先に立つ。

