そして、おもむろに席を立つと、壁に掛けてあったジャンパーのポケットから1枚の写真を取り出し、それを乱雑に机に投げた。
座り直した秀斗は、ちょうど俺に向けて投げられた写真を指差しながら、口を開く。
「津波のとき、これだけは持って逃げたんだ。見覚えあるだろ? 卒業式のときに、みんなで撮った写真。これしか残らなかった」
「ああ、覚えてる」
それは、俺たち仲のよかった仲間7人で撮った最後の写真で、卒業式後の教室の中、制服の胸の辺りに赤い花をつけたり、卒業証書が入った筒を持ち、黒板を背にしておどけたポーズをとりながら笑っている、という写真だった。
制服を着ているせいだろうか、あれから2か月ほどしか経っていないのに、みんな若干、幼く見え、なんとも言えない気持ちになる。
「こいつ……英慈は、家族の話によると、家にいたじいさんと一緒に逃げようとしたみたいだけど、津波の到達のほうが早かったんだな。あとでがれきの下から見つかったそうだ。じいさんと重なるようにして死んでたんだと」
俺から見て、写真の左上の端、大口を開けて卒業証書の筒をかじる真似をしている奥山英慈を指で軽く叩くと、秀斗は言った。

