けれど、口から出る寸前のところだったそれらの言葉は、すぐに飲み込むこととなる。
……親父は、静かに泣いていたのだ。
「いや、言っていることが正反対ですまない。大学で頑張ってほしいと思うのも、辛くなったら戻ってこいと思うのも、どちらも本心だ。お前には、しなくてもいい苦労をさせることになってしまって、どう謝ったらいいか」
「……」
「ただな、忘れないでほしい。父さんたちは親だ。大学には行かせることになったが、それからどうしたいかは航が決めるといい。父さんたちは航がやりたいと思ったことを応援しよう」
「なんだよ、それ」
「はは。まあ、エールだと思ってくれ」
ちくしょう、最後の最後に言うなよ。
それに、キャラじゃないだろう、そんなの。
大学で頑張らなくては、とガチガチに気負っている俺の気持ちをほぐそうとしてのことかもしれないが、泣きながら「戻ってきていい」なんて言われてしまったら、かえって困る。
「……エール、ね」
「ああ、エールだ」
親父は、指で鼻をさすりながら言う。
今はまだ、そう言った親父の真意は図りかねる部分が多いが、何かの岐路に立ったとき、その言葉がどう進むかを決める糧になるかもしれない、そんな気がするのは気のせいだろうか……。
