「ろくに荷物も揃えてあげられなくて、本当にごめんね。お父さんもお母さんも頑張るから、航も頑張りなさいね。応援してるわ」
「ありがとう」
「お弁当、お昼に食べて」
「ん」
引っ越し当日。
朝、玄関先で靴を履いていると、慌ただしく母さんが台所から駆けてきて、目に涙をためながら、俺の手に弁当をよこしてくれる。
弁当はまだ温かく、ずっしりと重く、手から伝わってくるその感触に胸が張り裂ける思いだ。
進路が決まっていても、就職先の企業が被災してしまったために内定が取り消しになったという話や、進学自体を諦めざるを得なくなり、家族のために働く決断をしたという話もニュースでよく流れていて、聞くたびに胸が痛い。
けれど、俺のために大学進学という道を苦労して作ってくれた両親のためにも、俺だけ恵まれすぎていていいのだろうか……と後ろめたく思うのは、今日限りでやめようと思う。
進まなければいけないのだ、俺たちは。
どんなになっても。
「新幹線の駅まで送ろう」
「……ん」
玄関を開けると、すでに親父が車にエンジンをかけて待っていて、乗り込むと、短い会話ののち、車は駅に向かって走りはじめた。

