「さあ、温まってね。おにぎりと、豚汁よ」
「ありがとうございます」
それでも、どうしてか、腹が減るものは減る。
じっと見ていても、どうしようもない……と、仕方なく街の様子を眺めるのをやめた俺は、いくつかある炊き出しの列のひとつに並び、女性からおにぎりと豚汁を受け取った。
おにぎりを黙々と食べ、その合間に豚汁をすすると、みるみるうちに体の中から温かくなり、そのうち、どうしようもなく涙が込み上げる。
温かい食べ物をつくづくありがたいと感じたのは、これが初めてなように思う。
ほかの避難所は食べ物すらなく、寒さや空腹、いまだ続く余震などの恐怖にさらされているかもしれない、避難所にたどり着けず、家や建物の中に取り残されている人も多いはずだ。
それを考えると、どれだけ俺は恵まれているのだろうと思ったし、そういう過酷な中にいる人たちに、本当に申し訳が立たないと思った。
「……ごちそうさまでした」
「温まった?」
「はい、とっても。美味かったっす」
炊き出しの女性に皿とお椀を返しに行くと、女性は優しく微笑み、それらを受け取る。
そのとき、わずかに触れた女性の指先は、この寒さで冷たくなり、赤くかじかんでいた。

