目に焼きつけておこう。
そう思い、今にも駆け出していき、「少しだけでも香ちゃんの話を聞いてもらえませんか」と言いたい衝動を、ぐっとこらえる。
今、あたしが衝動のままに動けば、火に油を注ぐことになってしまうだろうし、そうなったらハルの気持ちも覚悟も無駄してしまう。
「……間宮さん」
「なんだ」
「あたし、大人になるのが怖いです……」
「ああ」
思わず、ぽつりと本音をもらすと、間宮さんは相づちを打ったあと、それ以降は何も言わず、すっとあたしの手を取り、握りしめた。
……痛いくらいに。
その手の強さから、少なからず、間宮さんにも何かしらの思うところはあるのだろうと思う。
けれど、間宮さんは大人だった。
帰りの電車の中で、あたしとともに駆け落ちの理由を聞いているため、間宮さん自身、思うところがないとは、なかなか思えない。
それでも、今は動かないことが正しい、そうあたしを諭してくれ、いくら幼なじみや友だちでも、突き詰めれば他人のあたしたちができるのはここまでだ、とラインを引いてもらったことは、自分の未熟さを知るきっかけにもなった。
あたしたちは、子どもで青かった。
ただ、それだけのことのように思う。

