「では、分からないことなどありましたら呼んでくださいね。あたしにできることでしたら、精一杯対応させて頂きます」
「そりゃどーも」
間宮さんを潮風の間に通し「失礼します」とドアを閉めると、離れたところまで行って、あたしは「はぁぁ……」と長いため息をついた。
そのまま壁づたいにしゃがみ込む。
おばあちゃんにとって、汐凪が大事な場所であり全てなように、あたしにとっても、ここはすごく大事で失くしたくない場所だ。
小さい頃から毎年手伝いに来ていたし、あたしが中学に上がって1人でも大丈夫になってからは、お母さんが行きたがらなくても「あたしは行く」と言って、ここに来ている。
ハルに彼女ができて前みたいに一緒に手伝えなくなっても、それでも気持ちは変わらない。
それなのに……。
「間宮さんには分からないですよ、あたしにとって、汐凪がどれだけ大事かなんて……」
間宮さんは大事なお客さんだ、と言い聞かせて我慢していたけれど、1人になった今は、せき止めていた気持ちが涙と一緒に溢れだす。
そんなあたしの精一杯の反抗心は、誰にも知られることもなく、床に吸い込まれていった。

