「それにしても、朝晩はけっこう涼しくなってきましたけど、昼間は暑いですね、やっぱり。トンボとセミが共演しています」
「ああ、出てくるのが早いトンボと、遅く出てきたセミが初秋に一緒にいる、って意味か。なかなかうまいことを言うじゃないか」
「ま、放送部員ですから」
その持て余している気持ちを払拭するように、ちょうど目の前をゆらゆらと飛んでいった1匹のトンボと、林の中からいまだ盛大に聞こえてくるセミの声に話題を転換してみる。
この辺りの初秋の風景では、そう珍しいものでもないのだけれど、なんだかやけに耳や目に留まって、思わず口にしてしまった。
「お、言うじゃん、お前」
「いやいや、お恥ずかしい限りです……」
「謙遜すんなよ。わりと好きだぞ、お前の声」
「……」
それに対して、間宮さんは、思わず赤面してしまいそうな台詞を言ってくるもので、自分でも思いのほか照れているらしいあたしは、何も言葉が出てこず、うつむいてしまう。
……い、いきなりなんなの、間宮さんってば。
気を使うな、と言ってきたり、あたしの声を、わりと好きだ、と言ってきたり、こうして学校の課題にまでつき合ってくれたり、びっくりするくらい、今日は優しすぎる気がする。
どの間宮さんが本来の間宮さんなのだろう。
不思議だ。

