「前は好きだったんだけどな。夜の海にもよく行ってたし、朝から晩まで泳いだりもしたし。……なんだろうな、歳? そういう体力が、もうなくなったのかもしんない」
そこであたしは、やはりこの無理矢理な話題転換は間違いだったことを痛感し、同時に、なぜか泣きたい気持ちになった。
“体力が……"なんて言って間宮さんは茶化すように笑ったけれど、その顔が、あたしにはどうしても今にも泣き出しそうな顔に見えて。
いつも自分のことは多くを語らないからだろうか、今日に限っていろいろと話してくれる間宮さんが、明日あたり、ふらっと民宿を出て行ってしまうような、そんな錯覚に陥る。
そうして、なんのリアクションもできずにいると、すっと普段の調子に戻った間宮さんは、あたしに顔を向けると言う。
「……お。なんで俺、こんなこと喋ってんだろ。満月見に行きたいんだったよな? だったら、次の満月がいつか調べとけ」
「は、はい」
「ん」
あたしのなんとも気の抜けた返事を聞くと、間宮さんは満足そうに微笑し、台所からもれ聞こえる2人の声に耳を傾けはじめた。
それは、話はこれで終わりだという無言の合図で、あたしは胸の奥にたまり続けるもやもやした感情を、ため息とともに飲み込む。

