昔、この世に神なるものは居ないと謡った男がいた。
 あるのはヒトのそれが映した虚ろな偶像である、といった具合の話だったか。
 薄学な自分にはよく飲み込めない話だったけれど、成る程たしかに、神は居ないのかもしれないと、箱詰めにされながらテネアは思う。こんな状況に至るまで放置してくださる神様は少なくとも、断じて、自分の神ではない。

 痛っ。

 ガタンッ、とまた一つ大きな揺れが人入りの箱を襲った。
 決定だ。荷馬車に積まれている。

「神様…」

たっぷりと呪詛を込めてやる。
天上まで及ぶと賛されるテネアの声、聞くがいい。
 湧き出す衝動を旋律に乗せるために、テネアは息を吸い込んだ。