伊丹 春真は双子の弟で、毎朝サボり癖の兄達を学校に送り届ける役割を果たしている真面目な小学校四年生。


その春真の後ろから傷達に声をかけたのは、青地の甚平を来た痩せた男だった。



三辺 恒、二十一歳。

ここ三辺家の主である。




「―――といってもこの家の家賃を払っているというだけで、部屋のほとんどは伊丹兄弟が好きに使っているがね」


「はぁ…………」


「クスクスッ。大丈夫だよ。刃物は持ってないよ」


「別に襲われるなんて思ってねぇよ。あんたが不気味なだけだ」


「おやおや、これは御挨拶だね」


「元同業者が何言ってやがるよ」


「八年前にもう引退したと、何度言ったら解るんだい?」


本当の話、この人物が過去に行なった仕事は、今でも伝説となって業界に残っている。


傷自身、こんな町で出会うとは夢にも思っていなかったが。


「恒さん、まだ傷と仲良くなってないの?」


春真が不思議そうに恒と傷の顔を見比べる。

それから、少し怒ったように言った。


「もう、これ以上三辺家に問題はいらないからね。何があったかは知らないけど、揉め事は起こさないでよー、傷はトラブルメーカーなんだから」


「俺!?こっちだって願い下げだ!!」


「クスクスッ。ほら、そろそろ行かないと学校に遅れてしまうよ。春真もいつまでも此処に居ていいのかい?」


「誰の為にわざわざ早起きしてると思ってんのー。自分の事くらいちゃんとやってます」


「クスクスクス、そうだったね」


「ごめんね皆。またいつか遊びに来てよ」


「暇が出来たらなー」


「あははっ、それじゃねー」


パタン


ドアが閉められた。