「それで、何でこんなにこの犬はデカいんだろうね?」


「…………さあな、俺も知りたいよ」


―――やっぱり、淳夜と蔆哉はどこか似ている、と傷は思う。


「へぇー、ビル・ゲイツ君って言うのか―。ナイスネーミングだな、淳夜」


「だろ?やっぱ最高だろ?」


「……ビル・ゲイツっつ―名前が最高かどうかは微妙だけど……大丈夫か?お前ら」


「「何が―?」」

がぶがぶがぶがぶ。


だらだらだらだら。


「……………………」


……血が。


淳夜と蔆哉の手から大量の血が。


「……こいつらは……ホントにもう……」


ビル・ゲイツは体が大きい。


それに比例して顔も大きい。


つまり口も当然大きい。


「……………………」


それは淳夜と蔆哉、二人の手を一緒に噛めるくらい大きかった。


がぶがぶがぶがぶ。


だらだらだらだら。


「いやー立派な犬歯だねー、ペットというよりは既に《肉食獣》って感じだねー」


「それでもなおその生物兵器を愛でていられるお前らが怖いよ…………」


傷は淳夜と蔆哉の手をとりあえずビル・ゲイツの口からずぽりと引き抜く。


「ワンっ」


「…………それで?今度は何の技を教えようとしたんだ?」


「……伏せ……」


淳夜が過度の出血で血の気を失った笑顔を浮かべる。正直怖い。


………懲りないなぁ。全くもって懲りないなぁ。


「しかも何で蔆哉さんまで……」


「好きなんだ!!動物好きなんだ!!わんちゃんラブリー!!!!」


「はいはい分かりましたよ」


ビル・ゲイツの特異な姿は、何故か蔆哉の心にもストライク。らしい。


未だ巨大な歯を剥き出しにして唸るビル・ゲイツに臆する事なく、蔆哉はその背中を一心不乱に撫でている。


「可愛いなぁ-いいなぁ-ウチ母親が動物嫌いでペット飼えないんだよ-可愛いなぁ〜。まぁ前の夫が絶滅危惧種の動物を密輸してて捕まったせいなんだけれどもね」


「何気にヘビーな家庭内事情をさらりと言うんじゃない」